東京高等裁判所 昭和41年(ラ)62号 決定 1966年10月24日
抗告人 大村精一郎(仮名) 外一名
上手方 高山光治郎(仮名)
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は、抗告人らの負担とする。
理由
抗告人らの求める裁判は、「原決定を取消す。相手方は、抗告人らに対し、昭和三九年一一月から毎月末日かぎり一ヶ月各金三万円を仮りに支払え。手続費用は、相手方の負担とする。」との決定であり、その申請の理由とするところは、次のとおりである。
一、抗告人精一郎は、相手方と同抗告人の母大村清子との間に昭和三三年一二月一三日出生した相手方の実子にして、相手方の認知を受けたもの、抗告人徳太郎は、相手方と同抗告人の母大村孝代との間に昭和三九年四月二二日出生した相手方の実子であるが、相手方においていまだ認知しないものであるところ、相手方は、抗告人らに対し昭和三九年一〇月までは生活費として一ヶ月各金三万円送金してきたが、同年一一月以降送金をしない。
二、抗告人らは、相手方が生活費を送らなくなったため、その日の生活費にも事欠く状熊となり、静岡地方裁判所に対し、相手方が抗告人らに昭和三九年一一月以降毎月末日かぎり一ヶ月各金三万円の生活費を仮りに支払うことを命ずる仮処分の申請をしたところ、同裁判所は、地方裁判所は右仮処分について管轄権がないとの理由で、申請を却下した。
三、しかし、原決定は、別紙記載の抗告人らの主張の如く違法であるので、抗告の趣旨の裁判を求める。
当裁判所の判断
民法第八七七条は、直系血族及び兄弟姉妹は、互に扶養する義務があると規定するが、扶養義務者間の扶養の順序及び扶養の程度又は方法については、一定の基準を法定せず、かかる扶養に関する処分につき、同法第八七八条及び第八七九条は、家庭裁判所の裁量権により具体的に形成すべきものとしているので、扶養義務の存在を前提として、扶養義務を具体的に形成する処分は、非訟事項であり、家事審判法によれば、家庭裁判所が非訟手続により裁判すべきものとされているので、地方裁判所は、右の処分につき裁判をする権限を有しないものといわねばならない。
ところで、民事訴訟法による仮処分が許されるのは、その本案につき訴訟手続により地方裁所が裁判しうる事件に限られるのであるから、家庭裁判所が非訟手続により扶養義務の具体的形成につきなす裁判については、地方裁判所において仮処分をなすことは許されないものというべく、抗告人らの指摘する最高裁判所の決定は、本件に直接の関係はない。それ故、原審が右申請を却下したのは相当にして、本件抗告は、これを棄却すべきである。
よって、抗告費用の負担につき民事訴訟法第四一条、第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 仁分百合人 裁判官 池田正亮 裁判官 小山俊彦)
(抗告人らの主張省略)